知ってるようであんがい知らない 知能テストと IQのしくみ

『りんご通信』2006年4月号より

 やっぱり気になる「知能テスト」と「IQ」ですが、その仕組みをご存知でしょうか。概略をかいつまんでみましょう。

知能テストとは
どんなしくみのものか 
 知能テストは、今から100年前、フランスの心理学者A・ビネーらが文部当局から頼まれて作ったものです。学業不振児の指導方針を決めるために、不振の原因がその子の資質(知能)にあるのかそれ以外にあるのかを判断するのが目的でした。
 ここでビネーが用いた方法は画期的でした。それまでのように感覚や記憶などの要素を実験装置で測るような方法は用いず、知能が問われると考えられるさまざまな問題を作って多くの子どもに与え、結果を統計的に調べてみたのでした。
 すると多くの問題で、年齢が進むと合格する子どもの割合が増えていくことに気づきました。そこから問題を年齢で規定する着想を得たのです。具体的には問題ごとに同年齢の子どもの75%(4人に3人)が合格する年齢を出し、各問題をその年齢の問題として位置づけました。そして、年齢の順序で問題を配置したテスト・バッテリー(組み合わせ)を作ったのです。
 このテスト・バッテリーを子どもにさせると、あるところまで出来て、そこから先は出来なくなります。そこで、その子は何才の問題まで出来たのだから、精神的には何才に相当すると考えたのがビネーの「年齢尺度」と「精神年齢」の概念です。テストといえば何問中の何問が合格したかの「点数法」が常識だった時代に、これは実に画期的な方法でした。

IQとは
どんなしくみのものか
 その後、ビネーの知能テストは世界へと広まりました。中でもアメリカのL・ターマンによる改訂版は「スタンフォード・ビネー」として有名ですが、ここで内容的にも変質をします。そのひとつがIQの採用です。
 IQ(知能指数)はビネーの死後、ドイツのシュテルンという学者が考えたもので、精神年齢と生活年齢(満年齢)の割合いを指数に表したものです。
 精神年齢÷生活年齢×100
の式で計算され、例えば満5才の子が5才の精神年齢を示しているなら100、6才の精神年齢なら120、4才の精神年齢なら80がIQです。
 精神年齢とIQでは、「知能」の意味合いが若干異なり、イメージとなると大いに違ってきます。精神年齢がある年齢時点での発達水準を判断する指標であるのに対し、IQは年齢を超えた頭の良さの指標としての「顔」を持ってきます。加えてターマンらはこのIQが変わらないものだと主張しました。IQ神話の始まりです。
 たしかに5才の時点で示した知能の発達ぶりは6才になっても尾を引きますからIQは手がかりにはなりますが、実際は、5才と6才で測定すればIQは違ってくるのが普通です。IQは決して不変ではなく、このことはIQ妄信の戒めであると同時に、幼少期の教育の可能性を示すものでもあります。
 また、IQに理論的な根拠は薄弱です。精神年齢は発達の段階を意味する順序尺度で、指数化のような割ったり掛けたりの操作をすべき比尺度でありません。1才の精神年齢の倍が2才のそれではないのですから。

知能テストが計るのは
頭の良し悪しではない?
 ところで、テストバッテリーに組み込まれた問題は年齢が進むに従って合格する子どもの割合が増していく性質のものですから、幼少期の健常児の場合、いずれはほとんどの子が出来るようになります。言い換えると、知能テストは問題をクリアする時期が早いか遅いか、つまり早熟か晩生かを診ていることになります。だから知能テストが計っているのは、頭の良し悪しというより知能の発達のペースだと考えるべきでしょう。幼少期の発達のペースは人によってさまざまですから、IQが変動するのも当然なことです。
 また知能の発達は、10才までは年齢差が個人差よりも大きいので年齢尺度で測るのが妥当なのですが、それを過ぎると次第に個人差が年齢差を上回るようになり、知能を年齢尺度で測ることにも無理が生じてきます。精神年齢の測定原理は本来子どもを対象としたもので、大人の測定には不向きなのです。これは、子どもが未分化な一般的知能を年齢とともに発達させている存在なのに対し、大人はその上に分化した特殊知能を築いていく存在で個人差が大きい、という現実に対応しています。
 幼少児の知能の発達ぶりを知っておくことは、その子に合った教育を考える上で貴重な指針となります。そのために知能テストに勝るものはありません。
 数ある心理テストの中でも知能テストほど大きな歴史と規模に支えられたものはなく、排斥の的にされやすいだけにきわめて真摯に作られてきました。知能テストは、まことに貴重な社会的財産と言うべきでしょう。

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